『この自由な世界で』

監督 ケン・ローチ インタビュー

  • 監督:ケン・ローチ
  • 脚本:ポール・ラヴァティ

―― この物語の発端は?

1990年代にリバプールの港湾労働者が仕事の臨時雇い化に抵抗し、安定雇用を求めた時、彼らのドキュメンタリー(「ピケをこえなかった男たち」※日本ではビデオ発売のみ/原題:The Flickering Flame)をつくりました。労働者から安定雇用が奪われ、派遣業務に代わっていく変化は、私には非常に大きな出来事に思えました。雇用の変化をもたらした政治的判断に、新労働党もトーリー党も、リベラルも誰も反対しませんでした。彼らは実は自由市場主義者です。彼らは変化を望んだのです。それは近代化と呼ばれ、自然の成りゆきだと言われます。ですが私が見たところ、実際にはそれは、ある一定の階級の意向にしか過ぎません。私たちはそれを仕方のないことだと思い込まされています。でも本当は、それは仕方のないことではないんです。
私たちはロサンゼルスのメキシコ系移民たちに関する映画『ブレッド&ローズ』を作り、3年前には第2世代移民についての映画『やさしくキスをして』も作りました。『ナビゲーター ある鉄道員の物語』は、派遣労働者になることを意味する民営化と闘う鉄道労働者達についての映画でした。こうした一連の関心がひとつになりました。イギリスの移民労働者の搾取をめぐるスキャンダルが大きくなってきたからです。変わりゆく仕事の形、移住や移民への関心、彼らの生きざま、なぜ彼らは移住するのか――これらすべてがこの映画につながってきたような気がします。

―― もっと極端な物語にすることもできたと思いますが……

アンジーとローズという、観客がその立場に共感できる2人のキャラクターを配してみたかったからです。あまり極端な人物設定にすると、観客は最初の1〜2分でその人物を受けつけなくなってしまいます。「ああ納得がいく…もし彼女がやらなくても誰かがやることだ…競争の激しい業界なんだから、競争心は強くなくては…チャンスを掴むためにはタフな人間でなくては…」という具合に彼女の論理に入り込み、最後にはその理屈がいかにひどいものかに気づくわけです。そういう流れで私たちはアンジーを選んだ、というか、アンジーがポール(・ラヴァティ)の心の中に入り込んできたんです。また、彼女は今の時代の精神性を非常によく表した存在でもある。数年後にはビジネスウーマン・オブ・ザ・イヤーになりそうな人物ですね。

―― アンジーはどういう人物なんでしょうか。

非常にエネルギッシュで魅力的ですね。彼女は、真面目で自尊心もある労働者階級の家庭出身。これまで自分の才能を発揮したことが一度もなく、おそらく20代でいろいろと嫌な人間関係を経験していている。彼女は、本気になれば自分には何かができる気がしている。そして今、何かしなければどんどん歳をとってしまい、人生の最高の時期が終わってしまうと考えている。彼女は今が人生の勝負の時だと感じていると思います。経営や取引の才、人を押しのけても道を切り拓き一番を取ることが重視される、「サッチャーの反革命」の申し子がアンジーです。

―― これまであなたは別の場所を舞台にしてきましたが、今回なぜ再びロンドンに戻ったのですか?

ポールと私はロンドンが英国資本の核であると感じていました。これは現在の経済システムの中心に位置する問題ですし、興味深いのは経済システムに対する偽善性です。移民の労働力がなくては英国経済は成り立たないと言いながら、その一方では、右翼は移民を英国から追い出せと主張している。それは、まさに偽善なんです。

(パンフレットより抜粋)
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