『この自由な世界で』

解説

見ている間は我を忘れ、見終わった後は、深く長く胸に残りつづける。名匠ケン・ローチの本領といえる感動作です。

世界中を感動で包んだカンヌ映画祭パルムドール大賞『麦の穂をゆらす風』から2年。いかに名匠とはいえ、これほどの傑作をつづけて完成させるとは!ベネチアでは最優秀脚本賞に輝いた本作だが、贈られた賞賛にはケン・ローチ監督への尊敬が込められ、最高賞にも勝るほどだった。
見ている間は、ただ登場人物の感情を胸いっぱいに感じてハラハラドキドキと我を忘れ、見終わった後に、何かを深く考えさせる。本作『この自由な世界で』はまさに、それらが奇跡のように存在するローチ印の傑作である。

ロンドン、この自由な世界で。アンジーは必死に生きている。「自由」という言葉の意味が深く胸に響きます。

一人息子ジェイミーを両親に預けて働くシングル・マザーのアンジー。彼女は思いきって自分で職業紹介所を始める。外国人の労働者を企業に紹介する仕事だ。必死にビジネスを軌道にのせるアンジーだが、ある日、不法移民を働かせる方が儲けになることを知る。もっとお金があれば息子と暮らせる、もっと幸せになれる。彼女は越えてはいけない一線を越えた。そして事件が起こる……。
この映画の背骨になるのは、競争によってより大きな利益を追う現代社会や移民労働者の問題だ。それは「自由市場」と呼ばれる世界。その世界で人は必死に生き、そのためにしなければならないことをする。誰もがしたいことをして、生きたい場所に行ける自由な世界。でも、本当にこれが、「自由」なのだろうか?

見事に“役を生きた”キャスト。ケン・ローチ映画を豊かにする、宝石のようなキャラクターたち。

この映画の大きな魅力のひとつは、俳優が演じていることを忘れてしまうほどに生き生きとしたキャスト達だ。
数々の女優賞にもノミネートされたアンジー役のキルストン・ウェアリングはもちろん、ぜひ注目して欲しいのは、本業はスタンダップ・コメディアンのレイモンド・マーンズ演じるアンディと、港湾労働組合にいたコリン・コフリン演じるアンジーの父親ジェフである。マーンズが見せるワーキング・クラスの人間臭いユーモアと、前の世代の労働のモラルを失っていないコフリンの頑固さ。彼らの魅力を見事に輝かせる脚本のポール・ラヴァティとローチ監督の手腕には脱帽だ。

カンヌ脚本賞につづき、ベネチア脚本賞に輝く盟友ラヴァティが贈る、世界のどこに生きていても共感できる物語。

『SWEET SIXTEEN』でカンヌ脚本賞、本作でベネチア脚本賞を受賞したポール・ラヴァティは、ローチ監督との仕事はこれが8本目。今や盟友といえる存在だ。
舞台はロンドン。「この物語は現代の経済システムの真ん中にある。だからロンドンでなくてはならなかった」とローチ監督は言う。しかし同時に、これは現代の経済システムを生きる人間なら世界のどこに生きていても共感できる物語だろう。それはたとえ、「移民問題」に見ないふりをしている日本であっても。

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